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『花嫁は愛の宝石』電子特別ストーリー付版配信(リブレ)

『花嫁は愛の宝石』電子特別ストーリー付版の配信が始まっています。
明神翼先生のとっても美しいイラストを、ぜひご堪能くださいませ~(#^▽^#)



→リブレ様HPへ

紙書籍未収録の番外編は、ノベル書式で25ページ。番外「ショート」というレベルではない気がしますね。書きすぎだー。
前半は以前、こちらのブログにアップしたものです。これで半分弱。
後半はらぶらぶしてるシーンです。よろしければご覧くださいませ~。

【あらすじ】
宝石の研究一筋でおまけにゲイゆえに出会いもなく恋愛経験ゼロの渡は、「一生の思い出に残る脱バージン」を決意して男同士の高級風俗店を訪れる。
そこで出会ったブラックダイヤモンドのようにセクシーで完璧な色男の鷹城に一目で恋に堕ちてしまう。
ゴージャスなホテルに連れられ、甘いキスと熱く淫らな愛撫に啼かされ続ける渡。濃厚すぎるHに懸命に応える渡の初心な反応は、百戦錬磨の鷹城には新鮮で、気づけば渡に夢中の彼からますます情熱的に求められ!
しかし鷹城の正体は!?
ラブラブあまあまなその後の二人のストーリーも収録した電子限定特別版!!


【巻末番外編、前半の再掲です】
***************

 キラキラと光り輝ける『可能性』は、原石だけでなく道端の小石にもあったらしい。
 雫石渡、二十九歳。職業、研究者。専門分野はジェムストーン、つまり宝石の原石。恋愛経験は超浅く、三週間のみ。人生で初めての恋をして、奇跡的に実って、初の交際。おかげさまで、脱バージン。
 ただ今、人生最良の時を過ごしている。
 大切な恋人――鷹城雅勲と出逢えたおかげで。
「……幸せだなぁ」
 突然、ブフォッ…! と佐東が隣で噴き出した。
 並んで作業していた渡は、ビクッと身を竦める。
「うわっ、何? 急に」
「センセ、漏れてる漏れてる!」
 液体など扱っていないが……と、手元を見下ろした。
 手のひらには、ブラックダイヤモンドの原石。とても質がよく、研磨したらさぞかし鷹城のように美しく光り輝くのだろうな……とせっかく夢想していたのに、なぜ邪魔されなければいけないのか。
「何も漏れてないけど」
「おもらしじゃねぇ! 心の声!」
 ぎゃんぎゃん喚かれて、渡は眉根を寄せた。
「きみさ、もうちょっと声量を落としたらどうかな? 僕はまだ耳が遠くなるほどの年寄りじゃないよ」
 苦言を呈すると、佐東はじっとりと恨みがましい目を向けてきた。
「明日、魔法使いになるくせに」
 三十歳まで童貞を守り抜くと魔法使いになる、と教えてくれたのは佐東だった。
 いつも変なことを言ってからかってくる佐東が苦手だが、この件に関してだけは少し感謝している。
 魔法使いになってしまうまでに! というタイムリミットがなければ、「百万円で僕のバージンをもらってください!」なんて鷹城に突撃していくことは絶対にできなかっただろうから。
「……ならないんじゃないかな? 魔法使いには」
「なんで?」
「なんで、って……」
 渡が鷹城という最高の伴侶を得たことを、佐東は知っている。性交していることなんて当然分かっているだろう。
 今朝だって起き抜けに組み敷かれて、啼かされてしまった。鷹城は絶倫だ。濃厚な交わりを思い出し、うっかり顔が熱くなる。
「え? ちょ、待って……センセ、まさかと思うけど……ヤ、ヤッたの?」
「やっ……!」
 絶句する。下品な言い方をされて悔しいのに、頬の火照りを止められない。
 誰かに聞かれたりしなかっただろうかと、思わず周囲を見回した。
 渡が所属する研究室は大部屋で、広々とした空間の中央に共同の作業台や実験機器が並び、壁に沿って各研究員の個人デスクが配置されている。
 幸いにも、こちらを気にしている人は誰もいなかった。
「パ、パートナーなんだから、当たり前だろ」
 強気に言ってみたけれど、声が震えて恰好がつかない。
 子どもの頃からコミュニケーション能力が欠如していて、恋人どころか友人もできず……家族さえも離れて行ってしまったこんな自分は、一生、ひとりぼっちで生きていくしかないのだろうと覚悟していたのに。
 恋人という夢のような関係を超えて、伴侶やパートナーという言葉使える時が来るだなんて、ほんの一ヶ月前の自分には想像もつかなかった。
「当たり前って……」
「なんだよ」
「……ホモって、分かんねぇ」
「それって差別?」
 ムッとした渡に、「いやいや、そんなつもりはないっすよ」と佐東は慌てる。
「だって男女だったら聞くまでもない役割分担が、男同士だとまさかそんなことになり得るだなんて、思ってもみなかったから!」
「そんなこと?」
「どう見たって普通は、センセがネコちゃんだって思うじゃないっすか!」
「ねこちゃん?」
 なぜここでいきなり動物の話が。
 佐東の言葉はいつも突拍子がなくて理解するのに苦労する。だから積極的に聞き流す習慣がついてしまったと言っても過言ではない。
「あのどっから見ても肉食ムンムン俺様鷹城様が、この論文は素晴らしいのに普段はうすらぼんやりしてる雫石センセににゃんにゃんされちゃうネコちゃんだなんて、誰も想像できませんよ。やっべ、これすげぇいいネタじゃね? いくらで売……あわわわ」
「随分、楽しそうな話をしているではないか?」
 突然響いたバリトンに、渡はパァッと破顔する。
「鷹城さん!」
 三つ揃えのスーツを身に纏った恋人が、眉間に皺を寄せて立っていた。
 佐東をギロリと睨み付けてから、渡に視線を移す……と、とろんと蜜が滴るような甘いまなざしに変わる。この瞬間が、とても好きだ。
「今日も私の雫は愛らしいな」
「っ! 何言ってるんですか。……さっきまで一緒にいたじゃないですか」
「三時間も離れておまえに恋焦がれていた男に、冷たいことを言うのだな。雫石先生?」
 ふっと笑みを浮かべる鷹城は、凄絶な男の色香を孕んでいる。はぁん、と腰が砕けそうになってしまった。
 思わずデスクに寄りかかると、さりげなく手が伸びてきて体を支えてくれる。
 優しい恋人が嬉しいけれど、そんなふうに近づかれると動悸息切れが激しくなって困るのだが。
「ただの研究室助手と、楽しそうに何を話していたのだ?」
「え、別に楽しくなんてないですよ?」
「ちょっとセンセー……」
 呼ばれた方を見ようとしたら、鷹城が身じろぎして渡の視界から佐東が消えた。なんて素敵な偶然。せっかく鷹城が来てくれたのだから、一瞬も漏らさずこの人を見つめていたい。
「私の耳が正しければ、何か下品な話題を振られていたようだが? 私の雫にセクハラしたのなら、即刻、奴を社会的に抹殺しよう」
 佐東が視界の外で何かぎゃーぎゃー叫んでいるが、完全に無視だ。
「あ、いえ。なんかいきなり動物の話を始めて、よく分からなかったです」
「……動物?」
「ねこがどうのこうのって」
「……なるほど」
 にやっと鷹城が片頬を上げた理由が、渡には分からなかった。
 ただ、こんな少し悪い表情の彼もかっこいいと、うっとりする。
「その前は何か違う話をしていたのか?」
「はい。ええと……」
 じわっと頬が熱くなってくる。あんなことを言った渡を、鷹城ははしたないと呆れたりしないだろうか。
「言ってごらん?」
 長い指で、頬をするりと撫でられた。そんなことをされたらますます赤くなってしまう。
「え、と、その……僕は、もう、魔法使いにはならないって話を……」
 駄目だ、恥ずかしい。
 視線を合わせていられず俯いた渡の耳に、クスッと苦笑が届いた。
 ――やっぱり呆れられちゃった……!?
 血の気が引く。
「非常に残念な報せかもしれないが……」
「は、はい……?」
「今夜、午前零時を迎えたら、雫は魔法使いになる」
「え!?」
 そんなまさか。渡はもう魔法使いにならないと、誰よりもこの人が知っているはずなのに。
 ――まさか…………夢だった……?
 幼い頃から憧れていたシンデレラはもうとっくに諦めたものの、魔法使いになるのは嫌だと一念発起して、百万円を握り締めてゲイ専門高級風俗店に乗り込んで、この人に出逢って……。
 誤解し合ってつらい思いもしたけれど、想いが通じ合った今は幸せだと噛みしめていたのに。
 まさか全部、自分の妄想だったのか。
 一瞬、本気でそんな疑いを持っってしまった渡だが……さすがにそれはないだろう。
 その証拠に、鷹城の漆黒の眸には熱い感情が溢れていた。
「雫……そんな悲しい表情をしないでくれ。おまえが勘違いしていることを知りながら、己の欲望のために訂正しなかった私を軽蔑するか?」
「えっ」
 勘違い? 欲望?
 誤解はすべて解けたと思っていたのに、まだ何か?
「魔法使いになる定義を、よく思い出してみてくれ」
「定義……」
 確かに佐東は言っていた。『三十歳まで童貞を守り抜くと、魔法使いになる』と。
 だから自分はもうならな……。
「あっ」
 ――え? あれ? 魔法使いになるのは……『童貞』を守り抜いた時?
 思い至った衝撃的な仮説に、渡は身震いした。
「も、もしかして……バージンは、最初から関係なかったり……?」
「そういうことだ」
 苦笑する鷹城に、「そんなぁ~」と嘆いてしまう。
 自分のボケっぷりが信じられない。鷹城と出逢ったあの一夜に関しては、信じられない誤解の連続だったが、そもそも一念発起した理由にまで勘違いが潜んでいようとは。
 ――でも、だからこそ、この人に出逢えたんだよね……。
 そう考えたら、胸が奥の方からじわっと熱くなってきた。
 鷹城と恋人になるまでの自分なら、失敗したことにばかり目がいって、いつまでもくよくよと後悔していた。けれど今は違う。失敗してよかったと思える日が来るなんて、本当に、人生には何が起こるか分からない。
「どうしても、魔法使いになるのは嫌か?」
 僅かに不安を滲ませて、鷹城が問う。そんな彼に、きゅんとした。
「いえ。なんか、まあいっか、っていう気になってきました」
「そうか」
 ホッと吐息を零し、鷹城は微笑む。
「まあ、そんな肩書きにこだわらなくとも、雫はすでに魔法を使っているしな」
「え?」
「私に……一生解けない恋の魔法をかけた」
「っ! 鷹城さん……!」
 感動に打ち震えた渡の足元に、突然、「ぐあーっ」と喚きながら佐東が倒れ込んできた。一体何事か。
 びっくりした渡と同様に、さすがの鷹城も佐東を見下ろす。
 床に突っ伏した佐東がムクリと顔を上げ。
「……砂吐いていいっすか?」
「いっそ砂になってしまえ」
 ガッと背中を踏みつけた鷹城に、「ぐえっ」と佐東が呻く。
「なにしてくれんっすか。エスカレートする前に止めてやったのにーっ」
「余計な世話だ」
「ここがどこか分かってます!? 大学の研究室! 職場! 大部屋! 人目ありまくり!」
 ハッとした。佐東の言う通りだ。つい目の前の恋人に夢中になってしまったが、鷹城の立場を考えると、この関係を知られていいはずがないのに。
「誰もこちらに注目などしていないぞ」
「そりゃもう日常風景っすからね! いちいち気にしてられないでしょうね!」
「ならばなんの問題もないではないか」
「ギリギリセーフだったでしょ今のは! ほっといたらアンタら、ちゅーでもかます気だったでしょ!」
「さっ、佐東くん! 声もっと押さえて!」
 小声で叫ぶと、じっとりと上目遣いで見上げられる。
「そう思うならセンセ、この足どけさせてくださいよ。こんな姿勢じゃまともに会話もできねぇ」
「でもきみ、自分で勝手に転んだんじゃないか」
 素朴な疑問を口にしたら、クッと鷹城が笑った。それと同時に、ピピッと彼の腕時計が鳴る。
「非常に名残惜しいが、もう行かなければ」
「え、もうですか?」
 まだ数分しか経っていないのに。
 鷹城が足をどけると、佐東は立ち上がって白衣をパンパンとはたく。
「なんかいっつもそうやって忙しいアピールしてるけど、ホントは鷹城サンって暇なんじゃねーの?」
「失礼なこと言うなよ」
「だってせいぜい五分しかいらんねぇくらい忙しい人が、なんでわざわざ会いに来るんっすか? 週に何回も! ここでしか会えないっていうならまだしも、アンタら一緒に住んでんじゃん」
 それは確かに、渡も気になっていたことだ。
 鷹城を見上げると、彼は嗤った。
「馬鹿め。白衣姿の『雫石先生』に会えるのはここだけではないか」
「エッ。まさかの白衣フェチ?」
「おまえの薄汚れたただの布と、雫の白衣を一緒にするな」
「アー。センセ限定の白衣フェチってことっすね? そんなん白衣買って家で着せりゃいいのに」
「…っ」
 小さく、鷹城が息を呑んだ。
 きっと佐東は気づいていないこの反応は、渡ならあんぐりと口を開いて瞠目している状態に等しい。すなわち驚愕。
 今の科白の一体どこに、それほどの衝撃を受けたのだろう。
「おい、ただの研究室助手」
「なっ、なんっすか」
 むっつりとした鷹城の迫力に、佐東がじりっと後ずさる。
「明日、雫は体調を崩して欠勤する」
「えっ?」
 驚いたのは渡だけだった。なぜか佐東は「アー……センセの誕生日っすからね。まあそうなるでしょうね」と納得している。なぜだ。
「雫の研究が滞りなく進められるよう、必要なことがあればきちんと引き継ぎを受けておけ。わかったな?」
「イエッサー」
 敬礼する佐東に、鷹城が泰然と頷く。
 ――なんだか鷹城さんって……佐東くんと話すの楽しそうだな……。
 胸がもやっとしてしまった。

        *  *  *

 その夜。
「さあ、雫。そろそろこれに着替えようか」
 鷹城の手料理に舌鼓を打った後、いつもならまったりとくっついて過ごす時間の始まりに、満面の笑みで彼が広げたもの――それはあまりにも見慣れた白い上着で。
 きょとんとしてしまった。もしかして誕生日プレゼントだろうか? と考えて。
 けれど日付が変わるまで、まだ三時間以上あるし……。
 ――あ。『白衣フェチ』?
 研究室での鷹城と佐東の会話を思い出した。まさか本当に、鷹城は白衣フェチだったのか。


♪続きのラブラブシーンは電子書籍でご覧ください♪

『もふもふ保育園とはらぺこ狼』 角川ルビー文庫

『もふもふ保育園とはらぺこ狼』の見本誌が届きました~。
まだ発売前ですが、ブログに画像とか載っけていいよと許可をいただいたので、はりきって宣伝しにまいりました!

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かっ、かわいい~~~!!!💕💕💕

鈴倉温先生が描いてくださったイラストが……もう本当に…悶絶ものの可愛さですよ……!
ちみっこのぷくぷくほっぺがたまらんです。
そして、もふもふのケモッ子が……(悶絶)
あまりの可愛さに、担当さんに許可をいただいて、このブログのアイコンにさせていただいちゃいました。こだぬきの福ちゃん。可愛すぎる…!


あらすじはこちらです↓

**********

ちびモフだらけの保育園に就職決定! しかも狼社長に発情されて…!?

風邪っぴきの子供を抱えた見ず知らずの父親を見かねて、声をかけた保育士の初音。ところが、その子供には、三角耳としっぽが生えていた――!?
偶然にも狼人間である迅剛とその息子・将勝と出会った初音は、将勝に懐かれた縁で、大企業の社長の迅が経営する“人間に変化する動物たちのひみつの保育園”「こんぽこ園」に就職することに。ケモっ子に囲まれてもふ充する一方、せっかちで尊大な迅からは「美味そうな匂い。喰っていい?」と味見を強要されて…!?
もふもふ保育園ラブ!

**********

ちびモフだらけとは?
こんぽこ園とは?

という疑問には、帯が明快に説明してくださってました~!
めちゃんこ可愛い…!
(クリックしてくださると大きくなります)

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それにしても、なんで「こんぽこ園」って名前なんだろう~? って、一瞬でも疑問に思われたそこのお嬢様。
チラッ✨

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(´艸`*)

自分では、ドヤァと思っているネーミングなのですが、する~っと流されてしまいそうな気がするので先に自己主張する作戦です。

こんぽこ園では、変化の練習をお遊戯に取り入れています。
みんなでこんな「おうた」を歌って


♪こーん! ぽっこぽっこ、こーん! ぽこっ。おっミミを消すよ? こーん! ぽこっ♪
♪こーん! ぽっこぽっこ、こーん! ぽこっ。しっぽを消すよ? こーん! ぽこっ♪


おミミとしっぽを消す練習をしているシーンのイラストが、もう本当に本当に可愛くて…!!
ぜひともご覧いただきたいです~。
ついでにこの「こんぽこ園のおうた」のメロディーも募集中です♪


ふぅ…。いつも以上に大興奮してすみません。
昔から拙作の同人誌をご購入くださっていたみなさまはご存知だと思いますが、鈴倉温先生にはデビュー前に同人誌のイラストを描いていただいて以来、お世話になっています。
いつか商業誌で一緒にお仕事したいね~と夢見ていたことが、ようやく叶いました!
嬉しいな~(*´▽`*) 素敵な機会をありがとうございました!

ちびモフだらけのこんぽこ園、ほんっっっとうに楽しく書かせていただきました。
読者様に、少しでも楽しんでいただけたら幸いです💕

公式発売日は5月1日。早いところでは、今月末に書店さんに並び始めると思います。
尚、コミコミスタジオ様でご購入くださると、鈴倉温先生のイラストポストカードの特典があります。
よろしければ、お手に取ってみてくださいね♥


**********

追記。
上の写真の中に、リアルどんぐりがひとつだけ紛れ込んでいます🐥
どこにあるでしょーか!?

(原稿を書く前に近所の山で拾ってきて、パソコンの前に鎮座していたリアルどんぐり様です✨)

「骨董探偵・凌!!~こう見えて実は花嫁~」

「貴砺さん、折り入ってお話があります」

 改まって切り出すと、貴砺は真剣なまなざしで凌を見つめた。
 けれど。

「なんだ?」

 声に、わずかに笑みが滲んでいる。
 きっと以前の凌なら気づけなかった、微妙な変化。

(あ、これはバレちゃってる…)

 そう悟ったが、せっかくなので演技は続けることにした。

「塔眞家の問題も決着がつきましたし、そろそろ再就職しようと思うんです」
「ほう?」
「でもおれ、骨董業界しか経験がないので…」
「凌は私に永久就職したのではなかったか?」
「それとこれとは別です」

 貴砺の眉間に皺が寄った。
 久しぶりに見る難しい表情に、きゅんとときめく。昔はこの顔をされると怖かったなぁ…と、懐かしくなった。

「会社に戻ると?」
「まさか。戻りたいなんて我が侭を言ったらご迷惑ですよ」
「そんなことを心配しているのか。ならば会社を買収すればいい。おまえが社長だ。誰にも文句は言わせない」

 あはは、と思わず笑ってしまった。
 さすが貴砺。いくらエイプリルフールのお遊びでも、凌には出てこない発想だ。

「そんな大胆なことをしなくても、骨董の仕事はできますよ。あのね……起業しようと思うんです」
「ほう。資金はいくら必要だ? とりあえず100億ほどか? すぐに手配しよう」

 今度は噴き出してしまった。
 眉間に皺を刻んだこの塔眞貴砺が言うから、どんなお笑い芸人にも負けないおもしろさがある。

「ちなみに、円ですか? 香港ドルですか?」
「おまえの会社が使いやすい通貨で、いくらでも」

 すでに凌の会社が存在しているような口ぶりがおかしい。

「豪勢ですね」
「私の花嫁にはそれだけの投資をする価値がある」
「失敗するかもしれませんよ?」
「ならばその経験を糧に、次の挑戦をするがいい」

 自分と出逢う前の貴砺が、一度でも失敗した部下は容赦なく切り捨てていたことを知っている。
 きっと出逢った頃の貴砺なら、凌に対しても同じ判断を下しただろう。
 いつの間に、これほど寛大になっていたのだろう。
 たとえお遊びの会話だとしても、心にもないことは言わない人だ。

 貴砺と出逢って自分が変わったように、自分が少しでもこの人に影響を与えられていると思ったら、愛しさで胸がいっぱいになった。

「ありがとうございます。でも、資金は必要ありません。おれの身ひとつでできる仕事なので」
「私の花嫁か?」
「その称号は既に獲得済みです。それにパートナーは仕事じゃありません」
「ふむ……分かったぞ。私の秘書だな。それならば身ひとつでできる。採用しよう」
「違います」
「ならば、側近か? 分かった。王を解雇して…」
「しないでくださいっ。骨董の仕事ですってば! 骨董の、なんでも屋です!」

 思わぬ方向に話が転がろうとするから、うっかり普通にバラしてしまった。
 もっともったいぶってなぞなぞみたいに言うつもりだったのに。
 そしてすかさず、なんちゃって、とネタばらしする予定が、変に間が空いてしまった。

「な、なんちゃ…」
「反対だ」

 頭ごなしに言われて、思わずムッとした。
 エイプリルフールのネタなのに。
 貴砺も凌の遊びにノッてくれているだけだと分かっているけれど、そんなふうに反対されたら反発したくなってしまう。

「…っ、どうしてですか? 今までだって、仕事としてではないけど、一族の方たちからの骨董の相談にちゃんと乗れてましたよね? ……ちゃんと、は言い過ぎですけど。……自分の力だけじゃ全然無理で、貴砺さんに助けてもらってばかりでしたけど、でも……」
「業務内容に異論はない。問題はネーミングだ」
「……え?」
「『なんでも屋』だと? そのような看板を掲げて、『花嫁になれ』との依頼が殺到したらどうするつもりだ? 考えただけで腹立たしい」

 何を言っているのだろう、このひとは。

「ましてや性的な要求を、」
「ありえません!」
「必ずある。少なくとも私が依頼する」

 キッパリと言い切った貴砺に、唖然とした。
 本当に、このひとは何を言っているのだ……。

「『なんでも屋』は許さない。『探偵』にしろ。それならば依頼を厳選できる」
「……ええと。本来の骨董業界から離れてしまうと思うんですが」
「『骨董探偵』とすればいい」

 これはツッコんでいいところだろうか。

「実際、そうだろう。今までの一族の者からの頼み事といえば、手持ちの骨董の来歴を調べてほしいやら、探している骨董があるやら、探偵のようなものだったではないか」
「……ええと、それを言うなら、古物商のほとんどが探偵と名乗っていいようなものだと思いますが……」
「名乗りたければ名乗ればいい。探偵に免許は必要ない」

 確かに。

「『骨董探偵・凌』……ふむ。なかなかそそられるではないか」

 そそられるとは一体。

「店舗は構えるのか?」
「えっ? いえ、いりません」

 思わず普通に答えてしまった。

「ふむ。ならば必要とするのは名刺と……あとはユニフォームだな。ツイードのマントとハンチング帽にパイプか」

 どこの探偵だ。
 というか、探偵か。
 貴砺も探偵という言葉からそんなイメージを思い浮かべるのかと新鮮に思う。

「いや、『骨董探偵・凌』がそのようなステレオタイプの探偵におさまるわけがなかったな。ユニフォームはチャイナ服だ」
「っ!?」
「スリットは大胆に入れる。だが、私以外の人間の前ではズボン着用を義務付ける」

 唐突に貴砺は立ち上がり、内線電話を手にした。
 第一側近である王月林に直通だ。

「チャイナ服用の生地を持ってこさせろ。凌の肌に触れることを許せる、最高級のものを」

 そんなことを命じたら、本当に持ってこられてしまう。

「ちょっ、ちょっと待ってください」
「あとは……」

 縋りついて止めようとする凌をチラリと見下ろし、貴砺が言葉を切る。
 くいっと頤を摘まれた。
 ドキッとする。キスの予感に慌てて離れようとしたが、漆黒の眸に見つめられると体が動かない。

「マスカレード用の仮面を」
(……は?)

 凌の疑問を残したまま、貴砺は内線電話を置く。
 そして腰を抱き寄せられた。
 至近距離から見下ろされる。唇に貴砺の吐息が触れ、鼓動が早鐘を打つ。

「依頼人との面会の際は、必ず仮面を装着すること。おまえの美貌を他人に見せてやるほど、私は心が広くない」

 もうどこからツッコめばいいのか分からない。
 とりあえず、これがエイプリルフールのネタだということだけは念押ししておかなければ。
 
「……え、えいぷりる…んっ」

 唇を塞がれた。すぐに深いものになり、呼吸を奪われる。
 キスの合間になんとか言葉にしようとするけれど、エイプリルフールという簡単な単語さえも紡ぐことができない。貴砺がくれるくちづけは、いつだって情熱的すぎる。

「骨董探偵・凌。初めての依頼だ。奪われてしまった私の心は、どこにある…?」

 そう囁いた貴砺に抱き上げられて、ベッドに運ばれ……うっかりとろけさせられてしまった凌が念押ししなかったことを後悔するのは、仕立て上がったチャイナ服と名刺を目の前に並べられる、翌日のことだった。
 しかも初めての依頼とやらがまったく骨董と関係なかったことに、凌は「今さらだけど…」と思いつつツッコんだ。


 ~完~  

旅エッセイ(小説bーBoy)


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小説bーBoy2017年春号(3月14日発売)
→リブレ様HPへリンク

北欧オーロラエッセイ✨

掲載していただいています♪ヽ(´▽`*)/
またしても、BL小説誌に突然のただの旅エッセイですみません💦

そうだ!オーロラを見に行こう!
って突然思い立ってフィンランド行きの飛行機とったら、なんととんでもない雨続きのシーズンでめちゃんこ閑散期だった! 後で知った! サンタクロース村なんてひとっこひとりいないよ😂
……という感じだったのですが、果たしてオーロラは無事に見られたのでしょうか!?
って内容です。簡単に言うと。6ページ載せていただいてます。

めちゃんこ楽しく書かせていただきました~。
よろしければ、ご覧くださいね♥

「翡翠の花嫁シリーズ番外編」同人誌のご案内

*2017.3発行同人誌の通販のご案内です*

翡翠の花嫁表紙

「翡翠の花嫁シリーズ番外編」

『翡翠の花嫁、俳優の溺愛』『翡翠の花嫁、王子の誓い』番外編。

攻視点のお話です。
メイン:俳優攻。
おまけ:王子攻。
ちび王子ともふもふ(うっさー伯爵)も少し登場しています。

受溺愛攻と、攻を一途に想い続けてきた受と、そんなばかっぷるを見守る人々のお話です。
シリアス要素はまったくありません。激甘です。

A5/44ページ/
通販→ コミコミスタジオ様 https://www.comicomi-studio.com/ 

【あらすじ】
咲(受)を溺愛している悠大(俳優攻)は、「大事なものほど、自分しか覗くことのできない宝箱の中に閉じ込めておきたい」という願望を持っている。
咲を独占したい、閉じ込めたいと願ってしまう心を、咲は受け入れてれてくれたが、実際に閉じ込めたりしたら、怖がらせて傷つけてしまうと恐れている。
病み属性を発動しないよう、必死に衝動を抑えていたが、とうとう自宅に咲を閉じ込めてしまった。
咲はきっと自分に失望した――と思いきや、想像していた反応とまったく違っていて……。

*******

【お試し読み】

 佐原・フランシス・悠大は沈痛な面持ちで、はぁ、と溜め息を漏らした。
 リヒト・龍・ヒッツェライアーは淡々と手酌で日本酒を舐め、完全にスルー。
 ヴォルグルフ・ジャッド・フォーンス・ヤーデルブルクは、公務を離れてなお王子然とした優雅な所作でワイングラスを回しながら、一瞥をくれる。
「どうかしたのか、悠大? ――と、一応訊こうか?」
「咲が可愛すぎてつらい」
「龍、すまないがそこのナッツを取ってくれ」
「聞けよ!」
 がぁっと噛み付くが、兄弟同然の幼馴染みふたりは、しれっとナッツの袋を受け渡ししている。
 悠大が国王からアトリエとして借りているこの離れで、こうして三人で酒盛りするのは約三ヶ月ぶりだ。
 ここ三ヶ月、悠大は日本で映画撮影に臨んでいた。今日の午後に帰国したばかりだ。
「失敬。あまりにも予想通りすぎる答えで、反応する必要性を感じなかった」
 ジャッドがそう言うのも無理はない。咲と恋人になってからというもの、悠大の溜め息の原因は常に「咲が可愛すぎる」ということだから。
 それ以前には、溜め息そのものをついた記憶がない。
 悠大には悩むという習性がなかった。
 問題が生じればすかさず手を打ち、自分にできることはすべてやり尽くす。あとは天命に任せるのみという主義だから。
 俳優という仕事は華やかで、人々にかしずかれるイメージが強いようだが、実際には自分の力が及ぶ範囲など知れている。スポンサーの思惑や制作側の意図、共演者の事情などが渦巻いて、地に足がついていないと濁流に呑み込まれてしまう。
 だから悠大は、他人の言動に自分の感情を預けない。
 たとえ誰かに裏切られても、「裏切る」というのはその人自身の問題で、自分には関係ないと割り切るのだ。
 残念だ、と感想だけ述べて、あとは忘れる。
 また、どれだけ演技を素晴らしいと絶賛された時でも、それはそう感じ取ったその人自身の感性だと考える。
 もちろん嬉しいが、依存することはない。
 自分の関わった作品が、たまたまそのタイミングで、その人の目に留まり、その時の心の状態の琴線に触れた――つまり「奇跡の瞬間」だと、悠大は知っている。
 だから一期一会に感謝し、執着しない。たとえその人が次の瞬間に悠大の作品を嫌いになったとしても、絶賛は嘘だったのかと疑うことはない。
 人は変わっていくものだ。その過程で、好きなものが変化するのも自然なこと。
 自分はただ、誰かの「奇跡の瞬間」に立ち会える作品を世に送り出せるよう、最善を尽くすのみ。
 そんなスタンスなものだから、対人関係で悩むこともなければ、感情を持て余すということもなかった。――咲に出逢うまでは。
 どうしようもなく惹きつけられたり、「奇跡の瞬間」が過ぎ去ってしまうことを恐れて近づきすぎないようにセーブしたり、どうしても触れたくてたまらなくなったり……そんな、自分ではコントロールできない衝動がこの世にあるなんて、知らなかった。
 ただ傍にいてほしくて、離したくなくて、自分だけの宝物として閉じ込めてしまいたくて。傍にいても、離れていても、咲への想いで胸が張り裂けそうになる。
 まさか自分がこんなふうに恋という感情に振り回されることになるなど、夢にも思わなかった。
「それで? 今回は一体、咲の何がおまえのハートを貫いたのだ?」
 少し前までは自分も同じように晴季への想いに振り回されていたくせに、正式に伴侶となった今や、すっかり落ち着き払っているはとこが憎たらしい。
 ――俺も入籍したら、こんなふうになれんのかな……。
 そう考えた端から、いや無理だろうな、と思った。
 入籍しようが一緒に暮らそうが、ようやく手に入れた最愛の恋人への想いが、そう簡単に落ち着くとは思えない。
 ジャッドの場合は、立場がそうさせたのだろう。
 王太子夫夫として公の場に立つなら、隙を与えてはいけないから。ジャッドも晴季も、完璧に彼らの役目をまっとうしている。
 ちなみに晴季は今、日本にいる。充希の高校の卒業式に列席するため、悠大とほとんど入れ替わりのタイミングで辻占邸に到着していた。
「俺ら、八日間離れるじゃん?」
「そうだな」
 晴季は明後日戻ってくるが、咲と充希は引っ越しの後片付けや挨拶回りなどがあり、六日遅れで王国に到着する。
「だから咲に、毎晩電話するって言ったんだよ」
「どちらの夜だ?」
「日本。だって寝る前に俺の声聞かせたら、咲の夢に出られるかもしんねぇだろ」
 ゴフッと龍が噎せる。何かおかしなことを言っただろうか。
「それは名案だが、物理的に難しいのではないか? 時間的に、悠大は仕事中だろう」
「映画の撮影は終わってるから、どうにでもなる。ただ、咲もそこが気になったみたいでさ。『悠大さんに、無理してほしくないです』って……うおー、可愛いーっ」
 床をゴロゴロ転がりたくなるほどの『可愛い』が胸に渦巻いて、身悶える。
「いや、それは普通だろう。咲でなくとも言うぞ」
「ばっかだな~。咲が、俺に、あの声で、あの俺を大好きって口調で、『悠大さんに、無理してほしくないです』って言うんだぜ!? 可愛さ大爆発だろうが」
「ああ、そういうことか。それなら分かるぞ。晴季も毎日『ジェイ、今日も公務お疲れさま』と労ってくれるが、あれはなかなか……えもいわれぬ幸福感に満たされる」
「だろー? 咲なんてほんっと素直で隠し事できねぇからさ、もう『悠大さん』の言い方だけで、本当に俺のこと心配してくれてんだなーって伝わってきて、可愛いのなんの」
「晴季は照れた時の『ジェイ!』が絶品だ。……いや、『ジェイ』と呼ぶ時も、『……ジェイ』と呼ぶ時も最高に私の胸を揺さぶるが」
「おまえたちの会話が噛み合わないことにはもう慣れたが、彼らの口真似はやめてくれ。鳥肌が立つ」
 淡々とツッコむ龍の腕を掴み、袖を捲り上げてやった。目視確認。本当にブツブツしている。失礼なやつだ。
「おまえも早く運命の人に出逢えたらいいのにな……」
「今の彼女とはどうなのだ?」
「言ってなかったか? 振られた」
「えっ、いつ!? ってか、俺その彼女自体知らねぇ」
 自分たちはもともと、恋人ができたからといって報告し合うようなタイプではない。お年頃には性体験の話くらいはしたが、とりとめもない話題のうちの一つという程度だった。
 それが今や、集まるたびにこの調子だ。
 語らずにいられない。咲が可愛すぎるから。
 咲のちょっとした言葉やしぐさ、彼の存在そのものに、一喜一憂したり、心を震わせたりと忙しくて……それが幸せで。
 そうなって初めて、晴季に夢中になっているジャッドの気持ちが理解できたし、龍にもこんな感情を味わってもらいたいと思うようになった。
 だから、親友の恋愛が気になる。
「はっ。俺、今、恋バナしたがる女子高生の気持ちが分かったかもしれん」
「突然どうした」
「女子高生役のオファーが来ても、うまく演れる気がする」
「来ないのではないか?」
「分かんねぇだろ。ガチガチ七三分けの眼鏡オヤジと、食パンくわえてちこくちこく~って走ってる女子高生が出合い頭にぶつかって魂が入れ替わっちまう映画とかさ。それなら俺のこの外見でも女子高生役ってありえるだろ」
「……それは観てみたいような、勘弁してほしいような」
「それより、龍。その彼女ってどんな人なんだ?」
 前のめりに訊いてしまってから、失恋の傷を抉っただろうかとチラッと心配になった。
 けれど龍は眉ひとつ動かさず、淡々と猪口を傾けている。
「どんな……特に語ることはない」
 素っ気ないにもほどがある。
 しかし、龍が秘密主義というわけではないのだ。以前は自分も、せいぜい「美人」とか「モデルしてる」程度のことしか言えなかっただろう。
 咲と出逢う前の悠大にとって、恋愛とは駆け引きのゲームのようなものだった。遊びではなく、もちろん真剣な交際だ。ただ、互いに余裕があり、「恋人」という特別な関係を築いていく作業を楽しんでいたような気がする。
 人々に注目されることも分かっていたし、そんなものだろうと割り切っていた。パパラッチに狙われても、ポージングをして撮らせてやるのが常だった。咲を誰にも見せたくない、自分だけが独占したいと願うような感情を、これまでの恋人の誰にも抱いたことがない。
 ――人並みに恋愛できてるつもりだったんだな……。
 振り返ると恥ずかしくなる。
「振られたと言ったが、龍は納得しているのか?」
「ああ」
「話し合いはできたんだな?」
「別れたいと言われて、それ以上何を話すんだ?」
「未練は?」
「ない」
「……おまえも、彼女を好きだったんだろう?」
「気持ちがなければ交際などしない」
「ならば、いい」
 ふたりのやり取りを、悠大は黙って聞いていることしかできなかった。
 いくら三人で兄弟のような関係だといっても、四六時中行動を共にしている主従のふたりには、割り込めない何かを感じる時がある。
 そのことが少し淋しい。そんな自分に驚いた。子どもの頃でさえ、彼らにそんな感情を抱いたことはなかったのに。
 ――俺、なんか幼児返りしてねえ?
 懸命に自制してきた独占欲を咲が受け止めてくれてから、感情の箍が外れているような気がする。
 好き、嬉しい、幸せ、などというプラスの感情が湯水のように湧いてくるのはいい。積極的に堪能している。しかし疎外感やら嫉妬などという幼稚な感情まで解放されてしまうのはいかがなものか。ただでさえ自分には病み傾向があるというのに。
 もしもこのままエスカレートして、咲を傷つけるようなことになってしまったら……ゾクッと背筋に悪寒が走った。
 どこまでが許される範囲なのだろう。独占欲というものは。
「悠大」
 唐突に龍がつまみのジャーキーをガサッと掴み、悠大の手に押しつけてくる。
「悩みがあるなら、言え」
「咲を宝箱に閉じ込めたい」
『咲が可愛くてつらい』――自分では、そう言ったつもりだった。
 しかし口から零れ落ちたのは、まったく違う言葉。
「……あ? 俺、何言ってんだ?」
「閉じ込めたらどうだ?」
 他人事みたいに簡単に言う龍に、ムッとした。
 いや、実際に他人事なのだが。
「テキトーかよ」
「なぜだ? おまえの独占欲を彼は受け止めてくれたんだろう? ならばなんの問題がある?」
「それは……!」
 言葉が続かなかった。
 確かにそうだ。大切なものほど自分だけのものにしたくて、閉じ込めて誰にも見せたくないという子どもじみた欲望を、咲は広い心で受け入れてくれた。我慢して悠大に合わせているのではなく、もともとそういう性格だから平気だと笑ってくれた。
 その言葉を信じていないわけではない。
 ただ――それが現実になった時、本当に平然としていられる人間などいないと思うのだ。
 もしも悠大が咲をどこかに閉じ込めて、誰にも会わせないなどと言ったら、おそらく咲はショックを受けるだろう。そして悠大に失望するに違いない。
 世の中には、百年の恋も冷めるという恐ろしい現象がある。咲が、これまで自分が接してきたどんなファンとも違うことは充分知っているけれど……ただ、怖い。
 咲に嫌われて、この腕から飛び立ってしまったらと想像するだけで、足元から崩れ落ちてしまいそうな恐怖を覚える。
 咲を手に入れるまで、こんな感覚に襲われたことは一度もなかった。それなのに今や、恐れを持て余している。どうすれば逃れられるのか、まったく分からない。
「………俺って、こんなにヘタレだったっけ?」
 呟いた途端、ジャッドがクッと喉を鳴らして笑った。
 こっちは真剣に悩んでいるのにと、恨みがましい目を向けてしまう。
「失敬。恋愛は駆け引きしている時が一番楽しいなどと嘯いていた頃が懐かしいな」
「っ、……うっせー」
「世界中の女性を虜にしてきた佐原悠大をここまで骨抜きにしてしまう我が義弟には、おそれいった」
「おまえの義弟の前に俺の恋人だっつーの」
 釘を刺したら、龍にまでクッと笑われた。
「……なんだよ」
 むっつりと尋ねたら、龍は珍しく笑み崩れる。
「去年の今ごろのおまえに今の姿を教えてやっても、絶対に信じないだろうと思ったら、おかしくなってきた」
 去年の今ごろといえば、晴季と婚約したジャッドにノロケ倒されて辟易としていた頃だ。
 晴季の帰国でたった数日離れただけなのに「半身をもぎ取られたかのように痛い」だの「どうして今ここに、愛する晴季がいてくれないのだ…?」だの、俳優顔負けの情感たっぷりな口調で延々と語られて、悠大は半ば呆れて「あーハイハイ。あと数日もすりゃ戻ってくんだろ?」とあしらっていた。あの頃、「おまえたちはまだ真実の恋を知らないのだな……」などと哀れむようなまなざしを向けてくるジャッドに「おまえ、キャラが違ぇ!」「完全無欠の王子様どこ行った!?」等々、ツッコミまくっていた。
「ジェイには全力で謝罪したい」
 向き直ってガバッと頭を下げると、間髪容れず「赦す」と酒を注いでくれる。琥珀色の液体の中で、氷がカランと音を立てた。
「オイオイ王太子様よ、自分で言うのもなんだが簡単に許しすぎじゃねぇか?」
 なんの謝罪か理解しているかさえ怪しい。そう思ったが。
「おまえや龍が私に謝ることなら、なんだって赦すさ」
「っ! ……やべぇ、今ちょっと惚れそうになった」
「残念だがその気持ちには応えられない。私には愛する晴季がいる」
 真顔で答えるジェイに、龍が「振られたな」と追い打ちをかけてくる。こう見えて龍はおちゃめだ。
 しばらく与太話を繰り広げてから、不意にジャッドが話を戻す。
「悠大、どうしても閉じ込めたくなったら、『ごっこ遊び』をすればいいのではないか?」
「なんだそりゃ?」
「『閉じ込めごっこ』だ。本当の軟禁ではない。――そういう体裁を取っておけば、咲を怖がらせることなく悠大は目的を完遂できる」
 なにを言い出すのか、この王太子様は。
「咲はそこまで馬鹿じゃねぇっつーの。俺の欲望ギラギラの顔見りゃ一発でバレるわ。そんで怯えられて、下手したら嫌われて……」
 軽い調子で言ったつもりが、口の中に苦いものがこみ上げてくる。そして背筋がざわざわした。これはマズイ。
「咲なら、悠大の迫真の演技だと喜ぶのではないか?」
「アホの子か。ああ見えて咲って、めちゃめちゃ仕事できるらしいからな?」
 思わず自慢っぽく言ったが、それは晴季からもたらされた情報で、ジャッドも同席している時に聞いたのだった。
 咲本人は、晴季がいくら褒めても頑なに謙遜する。
「そのようだな。私としては、ぜひとも王宮の仕事に携わってほしかったものだ」
「残念でした。咲には俺の嫁という大事な仕事があるからな。しかも永久に」
 にへーっと脂下がってしまう。
 嫁。なんという素晴らしい響き。
「悠大、顔」
 ボソッと龍に指摘されて、「おっと」と両頬を持ち上げた。
 崩れすぎて咲に幻滅されないように、結婚までに訓練しておかなければ。


        *  *  *

 車から降りた瞬間、悲鳴の洪水に晒された。
 一般的には、耳をつんざくと表現するレベルらしいが、子役の頃から聞き慣れている悠大には日常風景だ。
 ジャッドの頼みで咲と国内を回っていた時にも、何度かこんなふうに騒がれてしまったことがある。
 咲は悲鳴に驚き、不安そうに瞳を揺らし、それなのに自分が矢面に立って悠大を逃がそうと毅然と顔を上げた。
 とても印象的だった。まだ恋だと認める前だったが、引っ込み思案な咲の意外な一面が見られて心が躍ったものだ。
 ――あー、咲に会いてぇな。
 咲が充希を連れて王国に戻ってくるまで、あと一日。
 以前は意識することなく過ぎ去っていた一週間が、咲と離れているだけでこんなに長い。


 (続きは、よろしければ同人誌でどうぞv)



プロフィール

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Author:mnsydk
BL作家・水瀬結月です。
お仕事・同人誌のご案内ブログです。
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