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「骨董探偵・凌!!~こう見えて実は花嫁~」

「貴砺さん、折り入ってお話があります」

 改まって切り出すと、貴砺は真剣なまなざしで凌を見つめた。
 けれど。

「なんだ?」

 声に、わずかに笑みが滲んでいる。
 きっと以前の凌なら気づけなかった、微妙な変化。

(あ、これはバレちゃってる…)

 そう悟ったが、せっかくなので演技は続けることにした。

「塔眞家の問題も決着がつきましたし、そろそろ再就職しようと思うんです」
「ほう?」
「でもおれ、骨董業界しか経験がないので…」
「凌は私に永久就職したのではなかったか?」
「それとこれとは別です」

 貴砺の眉間に皺が寄った。
 久しぶりに見る難しい表情に、きゅんとときめく。昔はこの顔をされると怖かったなぁ…と、懐かしくなった。

「会社に戻ると?」
「まさか。戻りたいなんて我が侭を言ったらご迷惑ですよ」
「そんなことを心配しているのか。ならば会社を買収すればいい。おまえが社長だ。誰にも文句は言わせない」

 あはは、と思わず笑ってしまった。
 さすが貴砺。いくらエイプリルフールのお遊びでも、凌には出てこない発想だ。

「そんな大胆なことをしなくても、骨董の仕事はできますよ。あのね……起業しようと思うんです」
「ほう。資金はいくら必要だ? とりあえず100億ほどか? すぐに手配しよう」

 今度は噴き出してしまった。
 眉間に皺を刻んだこの塔眞貴砺が言うから、どんなお笑い芸人にも負けないおもしろさがある。

「ちなみに、円ですか? 香港ドルですか?」
「おまえの会社が使いやすい通貨で、いくらでも」

 すでに凌の会社が存在しているような口ぶりがおかしい。

「豪勢ですね」
「私の花嫁にはそれだけの投資をする価値がある」
「失敗するかもしれませんよ?」
「ならばその経験を糧に、次の挑戦をするがいい」

 自分と出逢う前の貴砺が、一度でも失敗した部下は容赦なく切り捨てていたことを知っている。
 きっと出逢った頃の貴砺なら、凌に対しても同じ判断を下しただろう。
 いつの間に、これほど寛大になっていたのだろう。
 たとえお遊びの会話だとしても、心にもないことは言わない人だ。

 貴砺と出逢って自分が変わったように、自分が少しでもこの人に影響を与えられていると思ったら、愛しさで胸がいっぱいになった。

「ありがとうございます。でも、資金は必要ありません。おれの身ひとつでできる仕事なので」
「私の花嫁か?」
「その称号は既に獲得済みです。それにパートナーは仕事じゃありません」
「ふむ……分かったぞ。私の秘書だな。それならば身ひとつでできる。採用しよう」
「違います」
「ならば、側近か? 分かった。王を解雇して…」
「しないでくださいっ。骨董の仕事ですってば! 骨董の、なんでも屋です!」

 思わぬ方向に話が転がろうとするから、うっかり普通にバラしてしまった。
 もっともったいぶってなぞなぞみたいに言うつもりだったのに。
 そしてすかさず、なんちゃって、とネタばらしする予定が、変に間が空いてしまった。

「な、なんちゃ…」
「反対だ」

 頭ごなしに言われて、思わずムッとした。
 エイプリルフールのネタなのに。
 貴砺も凌の遊びにノッてくれているだけだと分かっているけれど、そんなふうに反対されたら反発したくなってしまう。

「…っ、どうしてですか? 今までだって、仕事としてではないけど、一族の方たちからの骨董の相談にちゃんと乗れてましたよね? ……ちゃんと、は言い過ぎですけど。……自分の力だけじゃ全然無理で、貴砺さんに助けてもらってばかりでしたけど、でも……」
「業務内容に異論はない。問題はネーミングだ」
「……え?」
「『なんでも屋』だと? そのような看板を掲げて、『花嫁になれ』との依頼が殺到したらどうするつもりだ? 考えただけで腹立たしい」

 何を言っているのだろう、このひとは。

「ましてや性的な要求を、」
「ありえません!」
「必ずある。少なくとも私が依頼する」

 キッパリと言い切った貴砺に、唖然とした。
 本当に、このひとは何を言っているのだ……。

「『なんでも屋』は許さない。『探偵』にしろ。それならば依頼を厳選できる」
「……ええと。本来の骨董業界から離れてしまうと思うんですが」
「『骨董探偵』とすればいい」

 これはツッコんでいいところだろうか。

「実際、そうだろう。今までの一族の者からの頼み事といえば、手持ちの骨董の来歴を調べてほしいやら、探している骨董があるやら、探偵のようなものだったではないか」
「……ええと、それを言うなら、古物商のほとんどが探偵と名乗っていいようなものだと思いますが……」
「名乗りたければ名乗ればいい。探偵に免許は必要ない」

 確かに。

「『骨董探偵・凌』……ふむ。なかなかそそられるではないか」

 そそられるとは一体。

「店舗は構えるのか?」
「えっ? いえ、いりません」

 思わず普通に答えてしまった。

「ふむ。ならば必要とするのは名刺と……あとはユニフォームだな。ツイードのマントとハンチング帽にパイプか」

 どこの探偵だ。
 というか、探偵か。
 貴砺も探偵という言葉からそんなイメージを思い浮かべるのかと新鮮に思う。

「いや、『骨董探偵・凌』がそのようなステレオタイプの探偵におさまるわけがなかったな。ユニフォームはチャイナ服だ」
「っ!?」
「スリットは大胆に入れる。だが、私以外の人間の前ではズボン着用を義務付ける」

 唐突に貴砺は立ち上がり、内線電話を手にした。
 第一側近である王月林に直通だ。

「チャイナ服用の生地を持ってこさせろ。凌の肌に触れることを許せる、最高級のものを」

 そんなことを命じたら、本当に持ってこられてしまう。

「ちょっ、ちょっと待ってください」
「あとは……」

 縋りついて止めようとする凌をチラリと見下ろし、貴砺が言葉を切る。
 くいっと頤を摘まれた。
 ドキッとする。キスの予感に慌てて離れようとしたが、漆黒の眸に見つめられると体が動かない。

「マスカレード用の仮面を」
(……は?)

 凌の疑問を残したまま、貴砺は内線電話を置く。
 そして腰を抱き寄せられた。
 至近距離から見下ろされる。唇に貴砺の吐息が触れ、鼓動が早鐘を打つ。

「依頼人との面会の際は、必ず仮面を装着すること。おまえの美貌を他人に見せてやるほど、私は心が広くない」

 もうどこからツッコめばいいのか分からない。
 とりあえず、これがエイプリルフールのネタだということだけは念押ししておかなければ。
 
「……え、えいぷりる…んっ」

 唇を塞がれた。すぐに深いものになり、呼吸を奪われる。
 キスの合間になんとか言葉にしようとするけれど、エイプリルフールという簡単な単語さえも紡ぐことができない。貴砺がくれるくちづけは、いつだって情熱的すぎる。

「骨董探偵・凌。初めての依頼だ。奪われてしまった私の心は、どこにある…?」

 そう囁いた貴砺に抱き上げられて、ベッドに運ばれ……うっかりとろけさせられてしまった凌が念押ししなかったことを後悔するのは、仕立て上がったチャイナ服と名刺を目の前に並べられる、翌日のことだった。
 しかも初めての依頼とやらがまったく骨董と関係なかったことに、凌は「今さらだけど…」と思いつつツッコんだ。


 ~完~  

『花嫁は愛の宝石』番外編

テスト記事です。
『花嫁は愛の宝石』(リブレ・b-Boyノベルズ)番外編です。
R18シーンへと続く直前までアップします(〃▽〃)
よろしければお付き合いくださいませ。



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 キラキラと光り輝ける『可能性』は、原石だけでなく道端の小石にもあったらしい。
 雫石渡、二十九歳。職業、研究者。専門分野はジェムストーン、つまり宝石の原石。恋愛経験は超浅く、三週間のみ。人生で初めての恋をして、奇跡的に実って、初の交際。おかげさまで、脱バージン。
 ただ今、人生最良の時を過ごしている。
 大切な恋人――鷹城雅勲と出逢えたおかげで。
「……幸せだなぁ」
 突然、ブフォッ…! と佐東が隣で噴き出した。
 並んで作業していた渡は、ビクッと身を竦める。
「うわっ、何? 急に」
「センセ、漏れてる漏れてる!」
 液体など扱っていないが……と、手元を見下ろした。
 手のひらには、ブラックダイヤモンドの原石。とても質がよく、研磨したらさぞかし鷹城のように美しく光り輝くのだろうな……とせっかく夢想していたのに、なぜ邪魔されなければいけないのか。
「何も漏れてないけど」
「おもらしじゃねぇ! 心の声!」
 ぎゃんぎゃん喚かれて、渡は眉根を寄せた。
「きみさ、もうちょっと声量を落としたらどうかな? 僕はまだ耳が遠くなるほどの年寄りじゃないよ」
 苦言を呈すると、佐東はじっとりと恨みがましい目を向けてきた。
「明日、魔法使いになるくせに」
 三十歳まで童貞を守り抜くと魔法使いになる、と教えてくれたのは佐東だった。
 いつも変なことを言ってからかってくる佐東が苦手だが、この件に関してだけは彼に少し感謝している。
 魔法使いになってしまうまでに! というタイムリミットがなければ、「百万円で僕のバージンをもらってください!」なんて鷹城に突撃していくことは絶対にできなかっただろうから。
「……ならないんじゃないかな? 魔法使いには」
「なんで?」
「なんで、って……」
 渡が鷹城という最高の伴侶を得たことを、佐東は知っている。性交していることなんて当然分かっているだろう。
 今朝だって起き抜けに組み敷かれて、啼かされてしまった。鷹城は絶倫だ。濃厚な交わりを思い出し、うっかり顔が熱くなる。
「え? ちょ、待って……センセ、まさかと思うけど……ヤ、ヤッたの?」
「やっ……!」
 絶句する。下品な言い方をされて悔しいのに、頬の火照りを止められない。
 誰かに聞かれたりしなかっただろうかと、思わず周囲を見回した。
 渡が所属する研究室は大部屋で、広々とした空間の中央に共同の作業台や実験機器が並び、壁に沿って各研究員の個人デスクが配置されている。
 幸いにも、こちらを気にしている人は誰もいなかった。
「パ、パートナーなんだから、当たり前だろ」
 強気に言ってみたけれど、声が震えて恰好がつかない。
 子どもの頃からコミュニケーション能力が欠如していて、恋人どころか友人もできず……家族さえも離れて行ってしまったこんな自分は、一生、ひとりぼっちで生きていくしかないのだろうと覚悟していたのに。
 恋人という夢のような関係を超えて、伴侶やパートナーという言葉使える時が来るだなんて、ほんの一ヶ月前の自分には想像もつかなかった。
「当たり前って……」
「なんだよ」
「……ホモって、分かんねぇ」
「それって差別?」
 ムッとした渡に、「いやいや、そんなつもりはないっすよ」と佐東は慌てる。
「だって男女だったら聞くまでもない役割分担が、男同士だとまさかそんなことになり得るだなんて、思ってもみなかったから!」
「そんなこと?」
「どう見たって普通は、センセがネコちゃんだって思うじゃないっすか!」
「ねこちゃん?」
 なぜここでいきなり動物の話が。
 佐東の言葉はいつも突拍子がなくて理解するのに苦労する。だから積極的に聞き流す習性がついてしまったと言っても過言ではない。
「あのどっから見ても肉食ムンムン俺様鷹城様が、この論文は素晴らしいのに普段はうすらぼんやりしてる雫石センセににゃんにゃんされちゃうネコちゃんだなんて、誰も想像できませんよ。やっべ、これすげぇいいネタじゃね? いくらで売……あわわわ」
「随分、楽しそうな話をしているではないか?」
 突然響いたバリトンに、渡はパァッと破顔する。
「鷹城さん!」
 三つ揃えのスーツを身に纏った恋人が、眉間に皺を寄せて立っていた。
 佐東をギロリと睨み付けてから、渡に視線を移す……と、とろんと蜜が滴るような甘いまなざしに変わる。
「今日も私の雫は愛らしいな」
「っ! 何言ってるんですか。……さっきまで一緒にいたじゃないですか」
「三時間も離れておまえに恋焦がれていた男に、冷たいことを言うのだな。雫石先生?」
 ふっと笑みを浮かべる鷹城は、凄絶な男の色香を孕んでいる。はぁん、と腰が砕けそうになってしまった。
 思わずデスクに寄りかかると、さりげなく手が伸びてきて体を支えてくれる。
 優しい恋人が嬉しいけれど、そんなふうに近づかれると動悸息切れが激しくなって困るのだが。
「ただの研究室助手と、楽しそうに何を話していたのだ?」
「え、別に楽しくなんてないですよ?」
「ちょっとセンセー……」
 呼ばれた方を見ようとしたら、鷹城が身じろぎして渡の視界から佐東が消えた。なんて素敵な偶然。せっかく鷹城が来てくれたのだから、一瞬も漏らさずこの人を見つめていたい。
「私の耳が正しければ、何か下品な話題を振られていたようだが? 私の雫にセクハラしたのなら、即刻、奴を社会的に抹殺しよう」
 佐東が視界の外で何かぎゃーぎゃー叫んでいるが、完全に無視だ。
「あ、いえ。なんかいきなり動物の話を始めて、よく分からなかったです」
「……動物」
「ねこがどうのこうのって」
「……なるほど」
 にやっと鷹城が片頬を上げた理由が、渡には分からなかった。
 ただ、こんな少し悪い表情の彼もかっこいいと、うっとりする。
「その前は何か違う話をしていたのか?」
「はい。ええと……」
 じわっと頬が熱くなってくる。あんなことを言った渡を、鷹城ははしたないと呆れたりしないだろうか。
「言ってごらん?」
 長い指で、頬をするりと撫でられた。そんなことをされたらますます赤くなってしまう。
「え、と、その……僕は、もう、魔法使いにはならないって話を……」
 駄目だ、恥ずかしい。
 視線を合わせていられず俯いた渡の耳に、クスッと苦笑が届いた。
 ――やっぱり呆れられちゃった……!?
 血の気が引く。
「非常に残念な報せかもしれないが……」
「は、はい……?」
「今夜、午前零時を迎えたら、雫は魔法使いになる」
「え!?」
 そんなまさか。渡はもう魔法使いにならないと、誰よりもこの人が知っているはずなのに。
 ――まさか…………夢だった……?
 幼い頃から憧れていたシンデレラはもうとっくに諦めたものの、魔法使いになるのは嫌だと一念発起して、百万円を握り締めてゲイ専門高級風俗店に乗り込んで、この人に出逢って……。
 誤解し合ってつらい思いもしたけれど、想いが通じ合った今は幸せだと噛みしめていたのに。
 まさか全部、自分の妄想だったのか。
 一瞬、本気でそんな疑いを持っってしまった渡だが……さすがにそれはないだろう。
 その証拠に、鷹城の漆黒の眸には熱い感情が溢れていた。
「雫……そんな悲しい表情をしないでくれ。おまえが勘違いしていることを知りながら、己の欲望のために訂正しなかった私を軽蔑するか?」
「えっ」
 勘違い? 欲望?
 誤解はすべて解けたと思っていたのに、まだ何か?
「魔法使いになる定義を、よく思い出してみてくれ」
「定義……」
 確かに佐東は言っていた。『三十歳まで童貞を守り抜くと、魔法使いになる』と。
 だから自分はもうならな……。
「あっ」
 ――え? あれ? 魔法使いになるのは……『童貞』を守り抜いた時?
 思い至った衝撃的な仮説に、渡は身震いした。
「も、もしかして……バージンは、最初から関係なかったり……?」
「そういうことだ」
 苦笑する鷹城に、「そんなぁ~」と嘆いてしまう。
 自分のボケっぷりが信じられない。鷹城と出逢ったあの一夜に関しては、信じられない誤解の連続だったが、そもそも一念発起した理由にまで勘違いが潜んでいようとは。
 ――でも、だからこそ、この人に出逢えたんだよね……。
 そう考えたら、胸が奥の方からじわっと熱くなってきた。
 鷹城と恋人になるまでの自分なら、失敗したことにばかり目がいって、いつまでもくよくよと後悔していた。けれど今は違う。失敗してよかったと思える日が来るなんて、本当に、人生には何が起こるか分からない。
「どうしても、魔法使いになるのは嫌か?」
 僅かに不安を滲ませて、鷹城が問う。そんな彼に、きゅんとした。
「いえ。なんか、まあいっか、っていう気になってきました」
「そうか」
 ホッと吐息を零し、鷹城は微笑む。
「まあ、そんな肩書きにこだわらなくとも、雫はすでに魔法を使っているしな」
「え?」
「私に……一生解けない恋の魔法をかけた」
「っ! 鷹城さん……!」
 感動に打ち震えた渡の足元に、突然、「ぐあーっ」と喚きながら佐東が倒れ込んできた。一体何事か。
 びっくりした渡と同様に、さすがの鷹城も佐東を見下ろす。
 床に突っ伏した佐東がムクリと顔を上げ。
「……砂吐いていいっすか?」
「いっそ砂になってしまえ」
 ガッと背中を踏みつけた鷹城に、「ぐえっ」と佐東が呻く。
「なにしてくれんっすか。エスカレートする前に止めてやったのにーっ」
「余計な世話だ」
「ここがどこか分かってます!? 大学の研究室! 職場! 大部屋! 人目ありまくり!」
 ハッとした。佐東の言う通りだ。つい目の前の恋人に夢中になってしまったが、鷹城の立場を考えると、この関係を知られていいはずがないのに。
「誰もこちらに注目などしていないぞ」
「そりゃもう日常風景っすからね! いちいち気にしてられないでしょうね!」
「ならばなんの問題もないではないか」
「ギリギリセーフだったでしょ今のは! ほっといたらアンタら、ちゅーでもかます気だったでしょ!」
「さっ、佐東くん! 声もっと押さえて!」
 小声で叫ぶと、じっとりと上目遣いで見上げられる。
「そう思うならセンセ、この足どけさせてくださいよ。こんな姿勢じゃまともに会話もできねぇ」
「でもきみ、自分で勝手に転んだんじゃないか」
 素朴な疑問を口にしたら、クッと鷹城が笑った。それと同時に、ピピッと彼の腕時計が鳴る。
「非常に名残惜しいが、もう行かなければ」
「え、もうですか?」
 まだ数分しか経っていないのに。
 鷹城が足をどけると、佐東は立ち上がって白衣をパンパンとはたく。
「なんかいっつもそうやって忙しいアピールしてるけど、ホントは鷹城サンって暇なんじゃねーの?」
「失礼なこと言うなよ」
「だってせいぜい五分しかいられないくらい忙しい人が、なんでわざわざ会いに来るんっすか? 週に何回も! ここでしか会えないっていうならまだしも、アンタら一緒に住んでんじゃん」
 それは確かに、渡も気になっていたことだ。
 鷹城を見上げると、彼は嗤った。
「馬鹿め。白衣姿の『雫石先生』に会えるのはここだけではないか」
「エッ。まさかの白衣フェチ?」
「おまえの薄汚れたただの布と、雫の白衣を一緒にするな」
「アー。センセ限定の白衣フェチってことっすね? そんなん白衣買って家で着せればいいのに」
「…っ」
 小さく、鷹城が息を呑んだ。
 きっと佐東は気づいていないこの反応は、渡ならあんぐりと口を開いて瞠目している状態に等しい。すなわち驚愕。
 今の科白の一体どこに、それほどの衝撃を受けたのだろう。
「おい、ただの研究室助手」
「なっ、なんっすか」
 むっつりとした鷹城の迫力に、佐東がじりっと後ずさる。
「明日、雫は体調を崩して欠勤する」
「えっ?」
 驚いたのは渡だけだった。なぜか佐東は「アー……センセの誕生日っすからね。まあそうなるでしょうね」と納得している。なぜだ。
「雫の研究が滞りなく進められるよう、必要なことがあればきちんと引き継ぎを受けておけ。わかったな?」
「イエッサー」
 敬礼する佐東に、鷹城が泰然と頷く。
 ――なんだか鷹城さんって……佐東くんと話すの楽しそうだな……。
 胸がもやっとしてしまった。

        *  *  *

 その夜。
「さあ、雫。そろそろこれに着替えようか」
 鷹城の手料理に舌鼓を打った後、いつもならまったりとくっついて過ごす時間の始まりに満面の笑みで彼が広げたそれは、あまりにも見慣れたもので。
「白衣ですか?」
 きょとんとしてしまったが、次の瞬間、研究室での鷹城と佐東の会話を思い出す。
 まさか本当に、鷹城は白衣フェチだったのか。


(続きのR18シーンはまたの機会に。すみません)
(改めて書くまでもないとは思うのですが……。無断転載等は一切ご遠慮ください)

プロフィール

水瀬結月

Author:水瀬結月
BL作家です。
お仕事・同人誌のご案内ブログです。
よろしくお願いします。
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ツイッター:@mnsydk
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