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「翡翠の花嫁シリーズ番外編」同人誌のご案内

*2017.3発行同人誌の通販のご案内です*

翡翠の花嫁表紙

「翡翠の花嫁シリーズ番外編」

『翡翠の花嫁、俳優の溺愛』『翡翠の花嫁、王子の誓い』番外編。

攻視点のお話です。
メイン:俳優攻。
おまけ:王子攻。
ちび王子ともふもふ(うっさー伯爵)も少し登場しています。

受溺愛攻と、攻を一途に想い続けてきた受と、そんなばかっぷるを見守る人々のお話です。
シリアス要素はまったくありません。激甘です。

A5/44ページ/
通販→ コミコミスタジオ様 https://www.comicomi-studio.com/ 

【あらすじ】
咲(受)を溺愛している悠大(俳優攻)は、「大事なものほど、自分しか覗くことのできない宝箱の中に閉じ込めておきたい」という願望を持っている。
咲を独占したい、閉じ込めたいと願ってしまう心を、咲は受け入れてれてくれたが、実際に閉じ込めたりしたら、怖がらせて傷つけてしまうと恐れている。
病み属性を発動しないよう、必死に衝動を抑えていたが、とうとう自宅に咲を閉じ込めてしまった。
咲はきっと自分に失望した――と思いきや、想像していた反応とまったく違っていて……。

*******

【お試し読み】

 佐原・フランシス・悠大は沈痛な面持ちで、はぁ、と溜め息を漏らした。
 リヒト・龍・ヒッツェライアーは淡々と手酌で日本酒を舐め、完全にスルー。
 ヴォルグルフ・ジャッド・フォーンス・ヤーデルブルクは、公務を離れてなお王子然とした優雅な所作でワイングラスを回しながら、一瞥をくれる。
「どうかしたのか、悠大? ――と、一応訊こうか?」
「咲が可愛すぎてつらい」
「龍、すまないがそこのナッツを取ってくれ」
「聞けよ!」
 がぁっと噛み付くが、兄弟同然の幼馴染みふたりは、しれっとナッツの袋を受け渡ししている。
 悠大が国王からアトリエとして借りているこの離れで、こうして三人で酒盛りするのは約三ヶ月ぶりだ。
 ここ三ヶ月、悠大は日本で映画撮影に臨んでいた。今日の午後に帰国したばかりだ。
「失敬。あまりにも予想通りすぎる答えで、反応する必要性を感じなかった」
 ジャッドがそう言うのも無理はない。咲と恋人になってからというもの、悠大の溜め息の原因は常に「咲が可愛すぎる」ということだから。
 それ以前には、溜め息そのものをついた記憶がない。
 悠大には悩むという習性がなかった。
 問題が生じればすかさず手を打ち、自分にできることはすべてやり尽くす。あとは天命に任せるのみという主義だから。
 俳優という仕事は華やかで、人々にかしずかれるイメージが強いようだが、実際には自分の力が及ぶ範囲など知れている。スポンサーの思惑や制作側の意図、共演者の事情などが渦巻いて、地に足がついていないと濁流に呑み込まれてしまう。
 だから悠大は、他人の言動に自分の感情を預けない。
 たとえ誰かに裏切られても、「裏切る」というのはその人自身の問題で、自分には関係ないと割り切るのだ。
 残念だ、と感想だけ述べて、あとは忘れる。
 また、どれだけ演技を素晴らしいと絶賛された時でも、それはそう感じ取ったその人自身の感性だと考える。
 もちろん嬉しいが、依存することはない。
 自分の関わった作品が、たまたまそのタイミングで、その人の目に留まり、その時の心の状態の琴線に触れた――つまり「奇跡の瞬間」だと、悠大は知っている。
 だから一期一会に感謝し、執着しない。たとえその人が次の瞬間に悠大の作品を嫌いになったとしても、絶賛は嘘だったのかと疑うことはない。
 人は変わっていくものだ。その過程で、好きなものが変化するのも自然なこと。
 自分はただ、誰かの「奇跡の瞬間」に立ち会える作品を世に送り出せるよう、最善を尽くすのみ。
 そんなスタンスなものだから、対人関係で悩むこともなければ、感情を持て余すということもなかった。――咲に出逢うまでは。
 どうしようもなく惹きつけられたり、「奇跡の瞬間」が過ぎ去ってしまうことを恐れて近づきすぎないようにセーブしたり、どうしても触れたくてたまらなくなったり……そんな、自分ではコントロールできない衝動がこの世にあるなんて、知らなかった。
 ただ傍にいてほしくて、離したくなくて、自分だけの宝物として閉じ込めてしまいたくて。傍にいても、離れていても、咲への想いで胸が張り裂けそうになる。
 まさか自分がこんなふうに恋という感情に振り回されることになるなど、夢にも思わなかった。
「それで? 今回は一体、咲の何がおまえのハートを貫いたのだ?」
 少し前までは自分も同じように晴季への想いに振り回されていたくせに、正式に伴侶となった今や、すっかり落ち着き払っているはとこが憎たらしい。
 ――俺も入籍したら、こんなふうになれんのかな……。
 そう考えた端から、いや無理だろうな、と思った。
 入籍しようが一緒に暮らそうが、ようやく手に入れた最愛の恋人への想いが、そう簡単に落ち着くとは思えない。
 ジャッドの場合は、立場がそうさせたのだろう。
 王太子夫夫として公の場に立つなら、隙を与えてはいけないから。ジャッドも晴季も、完璧に彼らの役目をまっとうしている。
 ちなみに晴季は今、日本にいる。充希の高校の卒業式に列席するため、悠大とほとんど入れ替わりのタイミングで辻占邸に到着していた。
「俺ら、八日間離れるじゃん?」
「そうだな」
 晴季は明後日戻ってくるが、咲と充希は引っ越しの後片付けや挨拶回りなどがあり、六日遅れで王国に到着する。
「だから咲に、毎晩電話するって言ったんだよ」
「どちらの夜だ?」
「日本。だって寝る前に俺の声聞かせたら、咲の夢に出られるかもしんねぇだろ」
 ゴフッと龍が噎せる。何かおかしなことを言っただろうか。
「それは名案だが、物理的に難しいのではないか? 時間的に、悠大は仕事中だろう」
「映画の撮影は終わってるから、どうにでもなる。ただ、咲もそこが気になったみたいでさ。『悠大さんに、無理してほしくないです』って……うおー、可愛いーっ」
 床をゴロゴロ転がりたくなるほどの『可愛い』が胸に渦巻いて、身悶える。
「いや、それは普通だろう。咲でなくとも言うぞ」
「ばっかだな~。咲が、俺に、あの声で、あの俺を大好きって口調で、『悠大さんに、無理してほしくないです』って言うんだぜ!? 可愛さ大爆発だろうが」
「ああ、そういうことか。それなら分かるぞ。晴季も毎日『ジェイ、今日も公務お疲れさま』と労ってくれるが、あれはなかなか……えもいわれぬ幸福感に満たされる」
「だろー? 咲なんてほんっと素直で隠し事できねぇからさ、もう『悠大さん』の言い方だけで、本当に俺のこと心配してくれてんだなーって伝わってきて、可愛いのなんの」
「晴季は照れた時の『ジェイ!』が絶品だ。……いや、『ジェイ』と呼ぶ時も、『……ジェイ』と呼ぶ時も最高に私の胸を揺さぶるが」
「おまえたちの会話が噛み合わないことにはもう慣れたが、彼らの口真似はやめてくれ。鳥肌が立つ」
 淡々とツッコむ龍の腕を掴み、袖を捲り上げてやった。目視確認。本当にブツブツしている。失礼なやつだ。
「おまえも早く運命の人に出逢えたらいいのにな……」
「今の彼女とはどうなのだ?」
「言ってなかったか? 振られた」
「えっ、いつ!? ってか、俺その彼女自体知らねぇ」
 自分たちはもともと、恋人ができたからといって報告し合うようなタイプではない。お年頃には性体験の話くらいはしたが、とりとめもない話題のうちの一つという程度だった。
 それが今や、集まるたびにこの調子だ。
 語らずにいられない。咲が可愛すぎるから。
 咲のちょっとした言葉やしぐさ、彼の存在そのものに、一喜一憂したり、心を震わせたりと忙しくて……それが幸せで。
 そうなって初めて、晴季に夢中になっているジャッドの気持ちが理解できたし、龍にもこんな感情を味わってもらいたいと思うようになった。
 だから、親友の恋愛が気になる。
「はっ。俺、今、恋バナしたがる女子高生の気持ちが分かったかもしれん」
「突然どうした」
「女子高生役のオファーが来ても、うまく演れる気がする」
「来ないのではないか?」
「分かんねぇだろ。ガチガチ七三分けの眼鏡オヤジと、食パンくわえてちこくちこく~って走ってる女子高生が出合い頭にぶつかって魂が入れ替わっちまう映画とかさ。それなら俺のこの外見でも女子高生役ってありえるだろ」
「……それは観てみたいような、勘弁してほしいような」
「それより、龍。その彼女ってどんな人なんだ?」
 前のめりに訊いてしまってから、失恋の傷を抉っただろうかとチラッと心配になった。
 けれど龍は眉ひとつ動かさず、淡々と猪口を傾けている。
「どんな……特に語ることはない」
 素っ気ないにもほどがある。
 しかし、龍が秘密主義というわけではないのだ。以前は自分も、せいぜい「美人」とか「モデルしてる」程度のことしか言えなかっただろう。
 咲と出逢う前の悠大にとって、恋愛とは駆け引きのゲームのようなものだった。遊びではなく、もちろん真剣な交際だ。ただ、互いに余裕があり、「恋人」という特別な関係を築いていく作業を楽しんでいたような気がする。
 人々に注目されることも分かっていたし、そんなものだろうと割り切っていた。パパラッチに狙われても、ポージングをして撮らせてやるのが常だった。咲を誰にも見せたくない、自分だけが独占したいと願うような感情を、これまでの恋人の誰にも抱いたことがない。
 ――人並みに恋愛できてるつもりだったんだな……。
 振り返ると恥ずかしくなる。
「振られたと言ったが、龍は納得しているのか?」
「ああ」
「話し合いはできたんだな?」
「別れたいと言われて、それ以上何を話すんだ?」
「未練は?」
「ない」
「……おまえも、彼女を好きだったんだろう?」
「気持ちがなければ交際などしない」
「ならば、いい」
 ふたりのやり取りを、悠大は黙って聞いていることしかできなかった。
 いくら三人で兄弟のような関係だといっても、四六時中行動を共にしている主従のふたりには、割り込めない何かを感じる時がある。
 そのことが少し淋しい。そんな自分に驚いた。子どもの頃でさえ、彼らにそんな感情を抱いたことはなかったのに。
 ――俺、なんか幼児返りしてねえ?
 懸命に自制してきた独占欲を咲が受け止めてくれてから、感情の箍が外れているような気がする。
 好き、嬉しい、幸せ、などというプラスの感情が湯水のように湧いてくるのはいい。積極的に堪能している。しかし疎外感やら嫉妬などという幼稚な感情まで解放されてしまうのはいかがなものか。ただでさえ自分には病み傾向があるというのに。
 もしもこのままエスカレートして、咲を傷つけるようなことになってしまったら……ゾクッと背筋に悪寒が走った。
 どこまでが許される範囲なのだろう。独占欲というものは。
「悠大」
 唐突に龍がつまみのジャーキーをガサッと掴み、悠大の手に押しつけてくる。
「悩みがあるなら、言え」
「咲を宝箱に閉じ込めたい」
『咲が可愛くてつらい』――自分では、そう言ったつもりだった。
 しかし口から零れ落ちたのは、まったく違う言葉。
「……あ? 俺、何言ってんだ?」
「閉じ込めたらどうだ?」
 他人事みたいに簡単に言う龍に、ムッとした。
 いや、実際に他人事なのだが。
「テキトーかよ」
「なぜだ? おまえの独占欲を彼は受け止めてくれたんだろう? ならばなんの問題がある?」
「それは……!」
 言葉が続かなかった。
 確かにそうだ。大切なものほど自分だけのものにしたくて、閉じ込めて誰にも見せたくないという子どもじみた欲望を、咲は広い心で受け入れてくれた。我慢して悠大に合わせているのではなく、もともとそういう性格だから平気だと笑ってくれた。
 その言葉を信じていないわけではない。
 ただ――それが現実になった時、本当に平然としていられる人間などいないと思うのだ。
 もしも悠大が咲をどこかに閉じ込めて、誰にも会わせないなどと言ったら、おそらく咲はショックを受けるだろう。そして悠大に失望するに違いない。
 世の中には、百年の恋も冷めるという恐ろしい現象がある。咲が、これまで自分が接してきたどんなファンとも違うことは充分知っているけれど……ただ、怖い。
 咲に嫌われて、この腕から飛び立ってしまったらと想像するだけで、足元から崩れ落ちてしまいそうな恐怖を覚える。
 咲を手に入れるまで、こんな感覚に襲われたことは一度もなかった。それなのに今や、恐れを持て余している。どうすれば逃れられるのか、まったく分からない。
「………俺って、こんなにヘタレだったっけ?」
 呟いた途端、ジャッドがクッと喉を鳴らして笑った。
 こっちは真剣に悩んでいるのにと、恨みがましい目を向けてしまう。
「失敬。恋愛は駆け引きしている時が一番楽しいなどと嘯いていた頃が懐かしいな」
「っ、……うっせー」
「世界中の女性を虜にしてきた佐原悠大をここまで骨抜きにしてしまう我が義弟には、おそれいった」
「おまえの義弟の前に俺の恋人だっつーの」
 釘を刺したら、龍にまでクッと笑われた。
「……なんだよ」
 むっつりと尋ねたら、龍は珍しく笑み崩れる。
「去年の今ごろのおまえに今の姿を教えてやっても、絶対に信じないだろうと思ったら、おかしくなってきた」
 去年の今ごろといえば、晴季と婚約したジャッドにノロケ倒されて辟易としていた頃だ。
 晴季の帰国でたった数日離れただけなのに「半身をもぎ取られたかのように痛い」だの「どうして今ここに、愛する晴季がいてくれないのだ…?」だの、俳優顔負けの情感たっぷりな口調で延々と語られて、悠大は半ば呆れて「あーハイハイ。あと数日もすりゃ戻ってくんだろ?」とあしらっていた。あの頃、「おまえたちはまだ真実の恋を知らないのだな……」などと哀れむようなまなざしを向けてくるジャッドに「おまえ、キャラが違ぇ!」「完全無欠の王子様どこ行った!?」等々、ツッコミまくっていた。
「ジェイには全力で謝罪したい」
 向き直ってガバッと頭を下げると、間髪容れず「赦す」と酒を注いでくれる。琥珀色の液体の中で、氷がカランと音を立てた。
「オイオイ王太子様よ、自分で言うのもなんだが簡単に許しすぎじゃねぇか?」
 なんの謝罪か理解しているかさえ怪しい。そう思ったが。
「おまえや龍が私に謝ることなら、なんだって赦すさ」
「っ! ……やべぇ、今ちょっと惚れそうになった」
「残念だがその気持ちには応えられない。私には愛する晴季がいる」
 真顔で答えるジェイに、龍が「振られたな」と追い打ちをかけてくる。こう見えて龍はおちゃめだ。
 しばらく与太話を繰り広げてから、不意にジャッドが話を戻す。
「悠大、どうしても閉じ込めたくなったら、『ごっこ遊び』をすればいいのではないか?」
「なんだそりゃ?」
「『閉じ込めごっこ』だ。本当の軟禁ではない。――そういう体裁を取っておけば、咲を怖がらせることなく悠大は目的を完遂できる」
 なにを言い出すのか、この王太子様は。
「咲はそこまで馬鹿じゃねぇっつーの。俺の欲望ギラギラの顔見りゃ一発でバレるわ。そんで怯えられて、下手したら嫌われて……」
 軽い調子で言ったつもりが、口の中に苦いものがこみ上げてくる。そして背筋がざわざわした。これはマズイ。
「咲なら、悠大の迫真の演技だと喜ぶのではないか?」
「アホの子か。ああ見えて咲って、めちゃめちゃ仕事できるらしいからな?」
 思わず自慢っぽく言ったが、それは晴季からもたらされた情報で、ジャッドも同席している時に聞いたのだった。
 咲本人は、晴季がいくら褒めても頑なに謙遜する。
「そのようだな。私としては、ぜひとも王宮の仕事に携わってほしかったものだ」
「残念でした。咲には俺の嫁という大事な仕事があるからな。しかも永久に」
 にへーっと脂下がってしまう。
 嫁。なんという素晴らしい響き。
「悠大、顔」
 ボソッと龍に指摘されて、「おっと」と両頬を持ち上げた。
 崩れすぎて咲に幻滅されないように、結婚までに訓練しておかなければ。


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 車から降りた瞬間、悲鳴の洪水に晒された。
 一般的には、耳をつんざくと表現するレベルらしいが、子役の頃から聞き慣れている悠大には日常風景だ。
 ジャッドの頼みで咲と国内を回っていた時にも、何度かこんなふうに騒がれてしまったことがある。
 咲は悲鳴に驚き、不安そうに瞳を揺らし、それなのに自分が矢面に立って悠大を逃がそうと毅然と顔を上げた。
 とても印象的だった。まだ恋だと認める前だったが、引っ込み思案な咲の意外な一面が見られて心が躍ったものだ。
 ――あー、咲に会いてぇな。
 咲が充希を連れて王国に戻ってくるまで、あと一日。
 以前は意識することなく過ぎ去っていた一週間が、咲と離れているだけでこんなに長い。


 (続きは、よろしければ同人誌でどうぞv)



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プロフィール

水瀬結月

Author:水瀬結月
BL作家です。
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